● 川辺川・球磨川流域の山翡翠・生態観察まとめ- 1
■ 全体的な生態・つがいの行動
- 辺川・球磨川流域のヤマセミは通年つがいで生活・行動している。片方の死別以外 の理由で単独で生活したり、行動したりはしない。
- 羽根休めの時には一羽しか視認できなくても、お互いに声もしくはその他の方法でコミュニケート出来る距離(最大でも80m 程度の距離)に必ずもう一方が隠れて居る。
- 単独に見えるのは唯一繁殖シーズンに片方が抱卵中の場合のみ。前年度巣立った1 年未満の個体でまだ伴侶を見つけていない場合も単独で生活・行動すると思われる。
- つがいは余程の事が無い限り毎年同じ相手と繁殖を行う。球磨川本流では2010 年~2013 年のつがいは同じ個体同士で同じ巣穴を使用し同じ場所を縄張りとしている。(独特の水中からのジャンプ、撮影者を認識していると思われる色々な行動で判断。)
- つがいのオスとメスは時々鳴きあいながら川面を追いかけ合ったりするが、縄張り争いとは異なりヤマセミ特有の一種の興奮状態による行動と見受けられる。
- ヤマセミはオスもメスも30 分以上じっとしていられない性質。羽根休めで寝たようになっていても30 分も経つと羽繕いや冠羽を立てて全身の上下動を繰り返し、水浴びや採餌で飛び回り活性化する。15 分ほど活性化するとまた30 分ほど羽根休めに入る。
- たとえ、前年度の親子であっても縄張り争いは激しい。自分の目の前をよそ者が通過するだけで、けたたましい鳴き声で追撃を開始する。この行為はオスもメスも行うが、オス同士が闘っている場合はメスは離れて見守っていて静かな場合が殆んど。
- 3 日間同じ服装で同じ時間帯に同じ場所に陣取り、ヤマセミと眼を合わせずに観察・撮影すれば、ほぼ4 日目にはこちらを覚えて気にしなくなる。一度覚えた相手は忘れないようだ。
- 撮影・観察時には派手な色の服は警戒される。周りの背景と同系色の迷彩柄が刺激せず最適。
- 活動は日の出から3 時間、日没前後2 時間がいちばん活性化するが日中でも1~2度採餌をする。
- 雨の時でも他の野鳥と異なり雨宿りなどはしない。雨中でも平気で普通通りの行動がみられる。
■ 採餌行動・ヤマセミの餌
- 川辺川・球磨川流域のヤマセミは主に鮎、オイカワ、ハヤ、ウグイ、ナマズ、ドンコ、カジカ、カマツカ、サワガニ、などを食す。
- 幼鳥が採餌練習で木の葉や小さな水生動物を捕獲するが、成鳥であっても興奮している時には木の葉や光る金属の破片などを咥えて戻る事が有る。
- 採餌は高低差1m ~ 18m 程度のダイビング、空中停止ホバリング、水面掛け回りの追い込み漁的捕獲方法で採餌する。ただ、追い込み漁的な場面は一度しか撮影されていない。
- 己の羽毛を落として疑似餌として魚をおびき寄せるササゴイの様な漁は視た事が無い。基本的に湖などとは異なり流れの激しい球磨川水系では不可能と思われる。
- 餌の大きさは10cm 程度の小魚から30cm の尺鮎まで千差万別。最短で0 秒、最大で20 分掛けて餌を丸呑みする。巣に持ち帰る場合は餌の頭を前にタテに咥えて持ち帰る。理由は運搬中、咥えた餌を狙うトビ・カラスなどに判りにくくするためと思われる。同時に飛翔時の空気抵抗軽減、襲われた時に水中に咥えたまま退避しやすいように水中抵抗を減らすためと思われる。
- 一旦地面に落ちた餌は二度と口にしないが、水中に落ちたものは拾い直す。
- 一度に2 匹以上の餌を咥えて戻った場面を3 度撮影しているが、食したのは1 匹のみ。
- ホバリングの最長時間は77 秒間(矢田氏観察・撮影)ホバリングの水平移動30m。
- ホバリングの高度は水面から最高10m、最低は1m。
- 採餌後の水浴びは最高回数23 回( 古江氏カウント)最低ゼロ回
- 球磨川本流での採餌方法はダイビングよりホバリングの方が成功率が高い。
■ 繁殖行動・ヤマセミの子育て
- 交尾前のプロセスはオスがリードする場合とメスがリードする場合両方とも存在する。
- 交尾前の「求愛給餌」は無い場合も有るし、交尾後の場合も有る。交尾自体はピーク時には毎日数回行われることが確認されている。同日2 回の交尾を2 度ほど撮影している。
- 交尾は各つがい毎にお気に入りの場所が有る。3 組が2 度同じ場所( 架線上・樹木上)で交尾をしている。球磨川支流のつがいは2 年続けてほぼ同じ時刻に同じ場所で交した。
- 交尾に入る場合は、お互い見合ってメスの方が交尾の場所から動かなくなる。基本的にオスがメスの所に飛んで交尾が始まる。
- 交尾の時間は3 秒~ 4 秒程だが完全に交尾( 結合)状態に有るのはその半分以下の時間。
- 交尾直後メスは川に入り水浴びを長い時間行う事が多い、人間がビデを使うのと同じ行為?
- 抱卵期に入ると早朝でもつがいが二羽で現れる事は無くなり、暫く1 羽しか観察できない。
- 早朝つがいで採餌に現れる事で雛が孵化したことを判断できる。両親が同時に巣を離れるのは早朝が多い様だ。孵化直後は日中に巣に餌を持ち帰る採餌行動はあまり多くない。雛の成長に合わせて採餌頻度が高まる。
- ヤマセミの子育てにおいては給餌行為以外はオスがオスを、メスがメスを教育している。2010 年、11 年の観察では1 対1 での教育が丸1 日行われているのを観察している。
- 先に生まれた幼鳥が後から生まれた幼鳥( 兄弟?)に給餌する事が有る。
- メスの成鳥同士が空中でお互い飛びながら餌の口渡しを行った。これは2 組の成鳥つがいが共同して子育てを行っているのか? 繁殖活動をしなかった前年巣立った成鳥が育児を手伝っているのか判断できない。これらの行為は球磨川本流の1 か所の大家族のみでの記録。
- 親鳥が幼鳥に餌を運んでくると、幼鳥は一種のパニック状態に陥る。バラバラに飛び回ったり水中に落ちたり、飛び込んだりする。
- 巣立ち後1 週間もすると200m の川幅の対岸まで幼鳥達だけで団体遠征を始める。
- 幼鳥の採餌練習は団体では行わず個々に離散して行う。この離散中天敵とびやカラスやハヤブサなどの脅威から親鳥が幼鳥を守る気配はない。
- 巣立ち後2 週間ほどは目に入るものすべてに興味を示す。撮影者の傍にも物おじせず寄ってくる事も有る。警戒心は有るがこちらが動かなければ気に止めなくなる。